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導入:公式は世界を読み解く言葉
数学の公式とは、自然や社会の背後にある「秩序」を最短の形で表した言葉です。数式を覚えることは、世界の構造を理解することにほかなりません。以下では、分野ごとに主要な公式をまとめ、その意味を簡潔に紹介します。
Ⅰ. 数と式(代数)
- 平方の展開: \((a + b)^2 = a^2 + 2ab + b^2\)
二つの項を二乗したときの構造を示す。式の展開や最小値計算に使う。 - 因数分解: \(a^2 – b^2 = (a + b)(a – b)\)
差の形を積に変えることで、複雑な式を簡略化できる。 - 二項定理: \((a+b)^n = \sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} a^{n-k} b^{k}\)
累乗の展開を一般化した公式で、確率や統計にも応用される。 - 等差数列: \(a_n = a_1 + (n – 1)d\)
一定の差で増減する数列を表す。時間や距離などの直線的変化を示す。 - 等比数列: \(a_n = a_1 r^{n-1}\)
一定の倍率で増える数列。利子計算や人口増加のモデルに使われる。 - 等比数列の和: \(S_n = a_1 \frac{1 – r^n}{1 – r}\)
指数的に増減する現象の合計を求める式。 - 二次方程式の解の公式: \(x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 – 4ac}}{2a}\)
放物線の交点や最大・最小を求める基礎。すべての解析の入口。
Ⅱ. 幾何・三角
- ピタゴラスの定理: \(a^2 + b^2 = c^2\)
直角三角形の辺の関係を示す。空間の距離や座標計算の基本。 - 正弦定理: \(\frac{a}{\sin A} = \frac{b}{\sin B} = \frac{c}{\sin C} = 2R\)
任意の三角形で辺と角の比を結ぶ。測量や航海などに応用。 - 余弦定理: \(c^2 = a^2 + b^2 – 2ab \cos C\)
角度を含む距離の一般式。ピタゴラスの定理の拡張版。 - 三角関数の基本式: \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\)
円運動や波の周期性を表す。エネルギー保存の数理的表現でもある。 - 加法定理: \(\sin(A + B) = \sin A \cos B + \cos A \sin B\)
角度の足し算を分解して計算できる公式。振動や信号解析の基本。 - 面積公式: \(S = \frac{1}{2} ab \sin C\)
三角形の面積を角度で表す便利な公式。
Ⅲ. 解析(微分・積分)
- 微分の定義: \(f'(x) = \lim_{h \to 0} \frac{f(x + h) – f(x)}{h}\)
変化の瞬間的な速さを求める。速度や傾きの概念を数学化する。 - 積分の定義: \(\int_a^b f(x)\,dx = \lim_{n \to \infty} \sum f(x_i)\,\Delta x\)
小さな部分の和で全体を求める考え。面積や体積の計算に使う。 - 微分積分の基本定理: \(\int f'(x)\,dx = f(x) + C\)
微分と積分が互いに逆の操作であることを示す。 - 部分積分法: \(\int u\,dv = uv – \int v\,du\)
掛け算の微積分を分解して簡単にする公式。 - 指数関数の微分: \(\frac{d}{dx} e^x = e^x\)
自分自身に比例して変化する関数。自然な成長のモデル。 - 対数関数の微分: \(\frac{d}{dx} \ln x = \frac{1}{x}\)
比率の変化を扱うときに登場する式。情報理論でも重要。
Ⅳ. 確率・統計
- 加法定理: \(P(A \cup B) = P(A) + P(B) – P(A \cap B)\)
重複を除いた確率の合成。複数の出来事が同時に起こる確率を整理する。 - 条件付き確率: \(P(A|B) = \frac{P(A \cap B)}{P(B)}\)
「Bが起きたあとにAが起きる確率」を表す。AIや統計分析に活用される。 - ベイズの定理: \(P(A|B) = \frac{P(B|A)P(A)}{P(B)}\)
新しい情報を得たときに確率を更新する理論。AI推論の基礎。 - 期待値: \(E(X) = \sum x_i P(x_i)\)
結果の平均的な値。意思決定や確率ゲームの評価に使う。 - 分散: \(V(X) = E(X^2) – [E(X)]^2\)
ばらつきを数値化する。リスクや誤差の分析に用いられる。 - 正規分布: \(f(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}} e^{-\frac{(x – \mu)^2}{2\sigma^2}}\)
自然や社会現象で頻出する分布。データ分析の中心的モデル。
Ⅴ. 複素数・指数・対数
- オイラーの公式: \(e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta\)
指数と回転を結ぶ式。波動や回路の解析に使われる。 - オイラーの恒等式: \(e^{i\pi} + 1 = 0\)
数学の基本的な定数 \(e, i, \pi, 1, 0\) を一つに結ぶ「数学の詩」。 - 指数法則: \(a^{m+n} = a^m a^n,\quad (a^m)^n = a^{mn}\)
指数の足し算・掛け算を整理する基本法則。 - 対数法則: \(\log(ab) = \log a + \log b,\quad \log(a^n) = n\log a\)
掛け算を足し算に変える。情報量や音の強さの尺度にも使われる。
Ⅵ. ベクトル・行列
- 内積: \(\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = |\mathbf{a}| |\mathbf{b}| \cos\theta\)
二つのベクトルの方向の一致度を表す。類似度や投影計算に使われる。 - 外積: \(|\mathbf{a} \times \mathbf{b}| = |\mathbf{a}| |\mathbf{b}| \sin\theta\)
面積や回転方向を表す。3次元の立体解析に不可欠。 - 行列の積: \((AB)_{ij} = \sum_k A_{ik}B_{kj}\)
複数の変換を連鎖的に適用する操作。AI・画像処理の中心的計算。 - 行列式: \(\det(A) = \sum (-1)^{i+j} a_{ij} \det(A_{ij})\)
行列の「大きさ」や変換の向きを示す。線形独立性の判定にも使う。 - 逆行列: \(A^{-1} = \frac{1}{\det(A)} \mathrm{adj}(A)\)
変換を元に戻す操作。方程式の解や最適化計算に用いられる。
Ⅶ. 微分方程式
- 指数成長・減衰: \(\frac{dy}{dx} = ky \Rightarrow y = Ce^{kx}\)
変化が自分自身に比例するときの基本式。成長・放射・人口増加に使う。 - 単振動: \(\frac{d^2x}{dt^2} + \omega^2x = 0\)
バネや音波などの周期運動を表す。調和振動の基本方程式。 - ニュートン冷却: \(\frac{dT}{dt} = -k(T – T_0)\)
温度差に比例して冷める法則。熱伝導や化学反応にも応用。 - 拡散方程式: \(\frac{\partial u}{\partial t} = D\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}\)
熱や物質が広がる過程を記述する。AIの正則化理論にも関連。
Ⅷ. その他の基本法則
- テイラー展開: \(f(x) = f(a) + f'(a)(x-a) + \frac{f”(a)}{2!}(x-a)^2 + \cdots\)
関数を無限級数で近似する。解析・シミュレーションの要。 - マクローリン展開: \(f(x) = f(0) + f'(0)x + \frac{f”(0)}{2!}x^2 + \cdots\)
原点まわりでの展開。小さな変化の近似に便利。 - フーリエ級数: \(f(x) = a_0 + \sum_{n=1}^{\infty}(a_n\cos nx + b_n\sin nx)\)
波や信号を基本波に分解する。音・光・データ解析に応用される。 - ラプラス変換: \(\mathcal{L}\{f(t)\} = \int_0^{\infty} f(t)e^{-st}\,dt\)
時間の関数を周波数領域に変換する。制御理論の基礎。
まとめ:公式は「知の座標軸」
数学の公式は、単なる計算ではなく「世界を測る視点」です。どの公式も、関係・変化・構造を理解するための言語であり、学ぶことはすなわち世界の読み方を身につけることです。
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