導入:ブラウザの中に、もうひとつのOSをつくる
「簡易Webターミナルをつくってみた」。この言葉だけを見ると、どこか技術的で、少し敷居が高そうに聞こえるかもしれません。けれど実際に触れてみると、その感触は驚くほど素朴で、懐かしく、そして新鮮です。
まずは、実物に触れてみてください。下に埋め込まれているのが、今回つくった「簡易Browser VFS Terminal」です。
mkdir と打てばフォルダが生まれ、edit と打てばエディタが開き、文章を書いて保存すれば、それは「ファイル」として残ります。ブラウザの中に、確かに「OSのような世界」が存在している。
それは単なるデモではなく、思考を置くための「場所」です。GUIでもなく、紙のノートでもない。コマンドを通して、構造をつくり、言葉を生み、保存し、読み返す。その一連の流れは、まるでMS-DOS時代のコンピュータと対話しているような感覚を呼び起こします。
基礎解説:簡易Webターミナルとは何か
この簡易Webターミナルは、ブラウザ上で動作する仮想ファイルシステム(VFS)を備えた小さな環境です。内部にはディレクトリとファイルの構造があり、ls、cd、mkdir、touch、cat、edit といったコマンドで操作できます。
特徴的なのは、データが localStorage に保存され、ページを閉じても内容が残ることです。つまり一時的な遊びではなく、「使い続けられる環境」として成立しています。
また、エディタは画面全体を覆うフルスクリーン型で、保存は Ctrl+S。保存しても終了しないという設計は、「書く」という行為を中断させないためのものです。これは単なる技術的選択ではなく、「思考を流れのまま残す」ための設計思想でもあります。
応用・背景:なぜ、あえて“ターミナル”なのか
現代のコンピュータ環境は、ほとんどがGUIで構成されています。アイコンをクリックし、ウィンドウを操作し、マウスで移動する。それは直感的で便利ですが、同時に「構造」を意識しづらい世界でもあります。
一方、ターミナルはすべてが「言葉」でできています。mkdir notes と打てば、「notes」という場所が生まれる。edit memo.txt と打てば、「memo.txt」という存在が立ち上がる。そこでは、操作と意味がほぼ一対一で結びついています。
この関係性は、思考にとても近い。人は頭の中で、「ここに置く」「名前をつける」「書く」「消す」という操作を無意識に行っています。ターミナルは、その内部操作を、そのまま外に引き出したようなインターフェースなのです。
だからこの簡易Webターミナルは、単なる学習用ツールではなく、「思考のための道具」になります。フォルダは思考の箱であり、ファイルは言葉の塊です。
社会的意義・未来:小さなOSがもたらすもの
もし誰もが、ブラウザひとつで「自分専用の小さなOS」を持てるとしたら、何が変わるでしょうか。
それは、クラウドサービスでも、SNSでもない、もっと個人的で、もっと静かな場所です。誰にも評価されず、アルゴリズムにも左右されない、自分だけの作業空間。そこでは、未完成な思考や、曖昧な言葉も、そのまま置いておくことができます。
教育の現場でも、こうした環境は有効です。プログラミングの学習という枠を超えて、「構造をつくる」「情報を管理する」「言葉を育てる」という基礎的なリテラシーを、体感的に学ぶことができます。
この簡易Webターミナルは、まだ最小限の機能しか持っていません。しかし、その最小性こそが価値です。余計なものがないからこそ、「書く」「考える」「構造化する」という本質が浮かび上がります。
まとめ:これはOSであり、エディタであり、思考の場である
ブラウザの中に生まれた、この小さな世界。そこでは、フォルダをつくり、ファイルを書き、保存し、読み返すことができます。それは紛れもなく、OSの最小構成です。
同時に、それはエディタでもあります。言葉を生み、育てる場所。そして何より、「考えるための空間」です。
派手なUIも、複雑な機能もありません。ただ、黒い画面と、カーソルと、いくつかのコマンドがあるだけ。それでも、そこには確かな“手応え”があります。
簡易Webターミナルをつくってみた、という一言の裏には、「自分の思考のためのOSを持つ」という、小さくて大きな試みが隠れています。これはまだ試作かもしれません。でも、その中には、未来の道具の原型が、静かに息づいています。


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