はじめに──読むという行為は、いつから急ぐものになったのか
私たちは日々、多くの文章を読んでいます。 ニュース、コラム、エッセイ、説明文。 それらの多くは、「短時間で理解すること」「要点を素早く掴むこと」を前提に書かれています。
もちろん、それは便利です。 けれど同時に、「読む」という行為が、いつのまにか速度の問題になってはいないでしょうか。
今回、AIと一緒に試してみたのは、 読む速度を上げるための工夫ではありません。 むしろ、読むという行為そのものを、少しゆっくり眺めてみるための実験でした。
その結果として生まれたのが、「3D読書アプリ」という小さな試作です。
3D読書アプリとは何か
このアプリの仕組みは、とても単純です。
- 文章は、画面の下から現れる
- 視点は、画面下のいちばん手前に固定されている
- 文字は、奥へ沈むように流れていく
2Dの画面だけを見ると、ただの縦方向の動きに見えます。 しかし視点を少し傾け、空間として眺めることで、 文字は「上に流れる」のではなく、距離をもって遠ざかっていくように感じられます。
このとき、画面の中心は中央ではありません。 常に中心にあるのは、画面下・いま読んでいる場所です。
読み終えた文章は、過去として、ゆっくり奥へ移動していきます。
iframe版:記事内での簡易体験
まずは、この記事の中で体験できる簡易版を埋め込んでいます。 iframeという形式のため、画面サイズには制限がありますが、 このアプリがどのような感覚を目指しているのかは、十分に感じ取れるはずです。
表示されている文章は、自由に書き換えることができます。 内容が変わると、同じ動きでも、受け取る印象は大きく変わります。
リンク版:本来の体験
このアプリは、本来は画面全体で眺めることを前提に作られています。 別タブで開くことで、より静かで、没入感のある体験になります。
以下のリンクから、フルスクリーン版を開くことができます。
なぜ「奥へ沈む」表現なのか
一般的なスクロールでは、文章は常に同じ平面に並びます。 過去に読んだ部分も、これから読む部分も、同じ強さで表示されます。
しかし、このアプリでは、文章に距離が生まれます。
- 手前:いま、向き合っている言葉
- 奥:すでに読み終えた言葉
文章は消えるのではなく、遠ざかっていきます。 その様子は、考えが少しずつ整理され、手放されていく感覚に、どこか似ています。
読むという行為を、眺め直す
速く読むことは、確かに役に立ちます。 けれど、すべての文章が、その読み方を求めているわけではありません。
ときには、 意味をすぐに理解しなくてもいい文章、 結論を急がなくてもいい文章もあります。
この3D読書アプリは、そうした文章と向き合うための、 ひとつの視点を提示しているにすぎません。
おわりに
文章を、空間として眺めてみる。 それだけで、読むという行為の印象は、少し変わります。
速さではなく、距離。 理解よりも、余韻。
この小さな試作が、 読む時間について考え直す、ひとつのきっかけになればと思います。


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