微分と回転──なぜ \(\sin x\) の微分は \(\cos x\) になるのか
三角関数の微分として、
\[ \frac{d}{dx}(\sin x)=\cos x,\quad \frac{d}{dx}(\cos x)=-\sin x \]
という関係はよく知られている。
通常、これは計算規則として提示され、 「なぜこの形になるのか」は深く掘り下げられない。
しかし、この関係を 回転という視点から見ると、 単なる公式ではなく、明確な幾何構造として理解できる。
sin と cos は位相がずれただけの同一構造
まず、\(\sin x\) と \(\cos x\) のグラフを考える。
両者は形としては同一であり、 横方向に \(\pi/2\) だけずれているに過ぎない。
これは、
\[ \cos x=\sin\left(x+\frac{\pi}{2}\right) \]
と書けることからも明らかである。
つまり、\(\sin x\) と \(\cos x\) の違いは、 関数の本質ではなく、 位相の違いである。
微分は位相を \(\pi/2\) 進める操作として現れる
ここで微分を考える。
\[ \frac{d}{dx}(\sin x)=\cos x \]
これは、 \(\sin x\) の形を壊して別の関数に変えているのではなく、 同じ形の波を \(\pi/2\) だけ進めたもの を与えていると見ることができる。
この意味で、
微分とは、位相を \(+90^\circ\) 回転させる操作
と解釈することができる。
同様に、
\[ \frac{d}{dx}(\cos x)=-\sin x \]
は、さらに \(\pi/2\) 進んだ結果であり、 位相としては \(\pi\) だけずれた状態を表している。
二階微分が示す「反対向き」への回転
この見方は、二階微分において特に明確になる。
\[ \frac{d^2}{dx^2}(\sin x)=-\sin x \]
これは、微分を二回適用すると、 元の関数と同じ形を保ったまま、 符号だけが反転することを意味する。
位相の言葉で言えば、
- 一回微分:\(+\pi/2\)
- 二回微分:\(+\pi\)
すなわち、 半周期(180°)回転した状態 である。
山は谷になり、谷は山になる。 この性質は、振動現象の基本構造と一致している。
積分は逆向きの回転として理解できる
微分が位相を進める操作であるならば、 積分はその逆にあたる。
\[ \int \cos x\,dx=\sin x \]
これは、位相を \(-\pi/2\) 戻す操作として理解できる。
したがって、
- 微分:位相を \(+90^\circ\) 回転
- 積分:位相を \(-90^\circ\) 回転
という対応が成立する。
sin と cos が、 微分・積分によって閉じた循環を形成している理由は、 この回転構造にある。
微分と回転が結びつく理由
この「微分=回転」という見方は、 すべての関数に当てはまるわけではない。
sin・cos は、 円運動に対応する関数であり、 微分しても形が壊れないという 特別な性質を持っている。
そのため、 変化率を取る操作が、 形の変形ではなく 向きの変換 として現れる。
この構造こそが、 振動・波動・交流・回転運動といった現象が、 三角関数と強く結びついている理由である。
まとめ──微分を回転として捉える視点
\[ \frac{d}{dx}(\sin x)=\cos x \]
という式は、 単なる微分公式ではなく、
変化を回転として捉える視点
を示している。
微分を「傾きの計算」としてではなく、 位相空間での回転として見るとき、 三角関数の振る舞いは、 より統一的に理解できる。
この見方は、 微分積分と幾何、物理を結びつける 一つの入口になるだろう。


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