はじめに──「式」と呼ばれるものは一種類ではない
数学では、さまざまなものが「式」と呼ばれます。
方程式、関数式、不等式、恒等式、漸化式……。
同じ「式」という言葉でまとめられているため、 それぞれが何を表し、どのような役割を持っているのかが、 分かりにくく感じられることも少なくありません。
この記事では、式を計算の手順としてではなく、 「何を見るための道具なのか」という視点から、 代表的な式の種類を整理してみます。
すべてを厳密に理解する必要はありません。 式ごとの立場の違いが見えてくるだけで、 数学の見え方はずっと落ち着いたものになります。
方程式──成り立つ点を探す式
方程式は、
ある条件を満たす値を探す
ための式です。
\[ x^2 = 4 \]
この式では、「いつ成り立つか」が問題になります。
解が存在し、正解・不正解がはっきりするため、 多くの人にとって数学の最初の入口になります。
方程式は、 一点を決めるための式 だと捉えることができます。
関数式──全体の構造を見る式
関数式は、
入力と出力の対応関係
をまとめて表します。
\[ y = f(x) \]
ここでは、特定の値を探すのではなく、 全体としてどのような関係が成り立っているかを見ます。
時間の流れや順番は表に出てこず、 完成した構造を一度に眺めるための式です。
関数式は、
全体像を示す式
だと言えます。
不等式──許される範囲を示す式
不等式は、
どこまでが成り立つか
という範囲を表します。
\[ x > 0 \]
方程式が「点」を扱うのに対して、 不等式は「領域」を扱います。
条件や制約を記述する場面でよく使われ、 現実世界の問題とも結びつきやすい式です。
恒等式──形を変えても意味が変わらない式
恒等式は、
いつでも成り立つ
式です。
\[ (a+b)^2 = a^2 + 2ab + b^2 \]
この式は、何かを決めたり、探したりするものではありません。
同じ内容を、別の形で書いているだけです。
恒等式は、
式を変形してよいことを保証するための式
と考えると分かりやすくなります。
恒等式は、答えを出すための式ではなく、 操作を支えるための道具です。
漸化式──変化を一歩ずつ追う式
漸化式は、
前の状態から次の状態を作る
式です。
\[ a_{n+1} = a_n + 1 \]
ここでは、全体像は最初から与えられていません。
あるのは、
- 現在の状態
- 次を決めるルール
だけです。
変化を積み重ねることで、 あとから全体の姿が見えてきます。
漸化式は、
変化や過程を記述する式
です。
微分──変化そのものを見る式
微分は、
いま、この瞬間にどれだけ変わっているか
を表します。
\[ \frac{dy}{dx} \]
関数式が全体の形を示すのに対し、 微分は変化そのものに注目します。
漸化式が離散的な変化を扱うのに対し、 微分は連続的な変化を扱う点が異なります。
どちらも、
「変化を見る式」
である点では共通しています。
式は「答え」ではなく「視点」を与える
こうして並べてみると、 式は単なる計算のための記号ではないことが分かります。
それぞれの式は、
世界のどこに注目するか
を選ぶための道具です。
- 点を見るのか
- 範囲を見るのか
- 全体を見るのか
- 変化を見るのか
どの式を使うかは、 何を見たいかを選ぶことでもあります。
式の種類を役割として捉えられるようになると、 新しい式に出会っても、 「これは何を見せようとしているのか」を 落ち着いて考えられるようになります。


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